パワハラ防止のその先へ:経営者が取り組むべき「幹部の心のケア」

「幹部のケアが必要だなんて、冗談でしょう?」そう思うかもしれません。

部下の指導、チームの目標達成、上層部との連携…。板挟みになりながら、多大なプレッシャーにさらされている幹部は少なくありません。

もしも幹部が、心に余裕がない状態だとしたら、どうなるでしょうか?

部下への声かけが強くなったり、チームの成果ばかりを気にしたり…。結果として「パワハラだ」、「モラハラだ」と捉えられてしまうかもしれません。

しかし、その根底にあるのは、幹部自身の「心の疲れ」かもしれません。

この記事では、幹部が抱える心理的な負担に焦点を当て、経営者としてできる「ケア」について考えていきます。

幹部が心理的に不安定に陥りやすい理由

中国公務員を対象とした研究によると、1990年代以前に生まれた人よりも、それ以降に生まれた人のほうが、心理的資本や職務遂行能力が高いという結果が出ています。

心理的資本とは、「希望」、「自己効力感」、「楽観性」、「レジリエンス(回復力)」の4つの要素からなる心の強さのことです。

これらの要素は、

  • 希望:目標達成のために、複数の道を考える力
  • 自己効力感:困難な課題でも、「自分ならできる」と信じられる自信
  • 楽観性:うまくいかないことがあっても、ポジティブに捉える力
  • レジリエンス:失敗や逆境から立ち直る力

を指します。

1990年代以前に生まれた、いわゆる「バブル世代」や「団塊ジュニア世代」の幹部は、厳しい経済競争や社会の変化を経験してきました。成功体験を積み重ねてきた反面、価値観の多様化や働き方の変化に戸惑い、心理的資本を育みにくい環境にあったのかもしれません。

一方で、1990年代以降に生まれた世代は、不確実性の高い時代を生きてきた経験から、変化に対応する力や新しい価値観を受け入れる力が高く、自然と心理的資本が育まれた可能性があります。

もちろん、年齢だけで一概には言えませんし、この研究は中国の公務員を対象としたものであり、日本でもそのまま適用できるとも限りません。しかし、この研究結果は、心理的に不安定な状態にあるのは、もしかすると、部下ではなく、幹部の方かもしれない、という一つの視点を与えてくれます。

幹部の心理的資本の低さが招く「不適切な言動」

幹部の心理的資本が低いと、どのようなことが起こるのでしょうか?

1. 効力感の欠如が、挑戦を阻む

「自分には、この仕事をやり遂げる力がある」という効力感が低いと、幹部は新しい挑戦や難しい課題を避ける傾向にあります。

結果として、チーム全体が成長する機会を逃してしまうだけでなく、幹部自身の自信もさらに失われていくという悪循環に陥ってしまうのです。当然、これは会社の業績にも影響してくることでしょう。

2. ストレスへの対処能力の低下が、感情的な言動につながる

心理的資本が低い上司は、ストレスに弱く、不安や抑うつといった精神的な問題を抱えやすくなります。

ストレスが限界に達すると、感情をうまくコントロールできなくなり、部下に対して一方的に怒りをぶつけたり、不機嫌な態度を取ったりしてしまうことがあります。

3. 希望の欠如が、柔軟な思考を奪う

目標達成に向けた希望が低いと、幹部は物事を悲観的に捉えがちになります。

計画通りに進まないと、「もうダメだ」と諦めてしまったり、部下のアイデアを受け入れず、自分のやり方に固執したりすることが増えるかもしれません。

4. レジリエンスの欠如が、逆境からの回復を遅らせる

チームが失敗したり、プロジェクトが頓挫したりしたときに、レジリエンスが低い幹部は、そこから立ち直るのに時間がかかります。

失敗をいつまでも引きずってしまい、次の行動に移せないだけでなく、チームの士気を下げてしまう可能性もあります。

今こそ必須!経営者ができる、幹部への「心のケア」

では、幹部の心の疲れに気づき、サポートするために、経営者は何ができるでしょうか。

1. 成功体験を促し、自己効力感を高める

幹部が達成感を感じられるよう、適切な権限委譲を行い、小さな成功体験を積み重ねる機会を提供しましょう。幹部の成功を具体的に称賛することで、彼らの「自己効力感」は高まります。

2. ポジティブなビジョンを共有する

企業が向かうべき方向性や目標を明確に伝え、その達成に向けた道筋を幹部と一緒に考えましょう。経営者自身が希望を語ることで、幹部のモチベーションを高め、チーム全体に前向きな姿勢を浸透させることができます。

3. 新しい挑戦を推奨し、心理的安全性を確保する

新しいアイデアや施策に挑戦しやすい環境を整え、失敗を恐れない文化を醸成しましょう。幹部が新しい試みに取り組むことを奨励することで、彼らの柔軟な思考力と「レジリエンス(回復力)」を育むことができます。

まとめ:幹部の心に余裕を持たせることは、企業の成長に不可欠です

幹部も、経営者と同じように、不安やストレスを抱える一人の人間です。彼らが心に余裕を持って働けているかは、チームのパフォーマンス、ひいては企業の成長に直結します。

幹部の言動に「あれ?」と感じることがあったら、その背景には、もしかしたら心の疲れがあるのかもしれない、という視点を持ってみてください。経営者として、幹部の心の状態を理解し、適切なサポートを行うことが、企業の健全な未来を築くことにつながります。